ゾウの防災訓練がもたらす教育と安全面での危険性
北九州市八幡東消防署で行われた木下サーカスのゾウを用いた防災訓練(3月24日)に対して北九州市消防局に抗議書を提出、また、名古屋公演(7/13~10/27)が行われる名古屋市の消防局には、ゾウの防災訓練を行わないよう要望書を提出しました。
北九州市消防局と名古屋市消防局からは、それぞれ対照的な回答がありました。
北九州市消防局の回答 ゾウ利用への言及は一切なし
北九州市八幡東消防署は今年3月24日に木下サーカスのゾウを用いた防災訓練を行い、公式のSNSなどでも宣伝ました。これは木下サーカスの北九州公演の期間中(3/23~6/30)に行われています。
防災訓練では、ゾウがバケツの水を鼻から放水するパフォーマンスが行われましたが、ただ野生動物を娯楽使役しただけで、消火や防災の訓練となんの関係もありません。
市民の税金が投入された防災訓練において、公共の機関が動物の虐待や搾取を前提とする民間の興行に積極的に関与し、SNSなどでも公演の宣伝を行ってしまいました。
ゾウを訓練に利用したからには、火災発生時のゾウの避難について消防局で対策しているかを尋ねましたが、これに対する回答はありませんでした。市民を安全に守るべき消防署が、人間に危害を加えうる特定動物であるゾウを防災訓練に用いることがまず疑問ですが、ゾウが特定動物であることも、ゾウの避難についてもなんら検討されていなかったのでしょう。回答には動物利用に関する言及は一切ありませんでした。
この防災訓練には園児たちも見学に来ており、動物の生態を正しく伝えるべき子どもたちに対して、動物福祉に反した動物の曲芸を防災に結び付けて見せてしまいました。保護すべき野生動物に対して、子どもたちは、動物は人間のいうことをきくのが面白いことだ、娯楽利用してもよいのだ、という誤った意識を持たせてしまいました。これは教育として極めて不適切です。
名古屋市消防局の回答 動物を使用した演出は実施しない
「名古屋市消防局においては今年度、木下サーカスにおける消防訓練で、象を含めて動物を使用し演出を実施する予定はありません。」
名古屋市消防局からはゾウを含めて動物の使用は行わない、という明確な回答をいただきました。
「実際の災害を想定した訓練を通じて、関係者の初期対応能力や避難誘導等の確実性を高める」ことを目的としている、とのことでした。この「確実性」において、ゾウの放水などまるで意味を持ちません。
市民や子どもたちの安全のために防災訓練はとても重要なものです。ですがゾウの調教芸はその貴重な時間を奪い、危機感を薄めてしまいます。さらに野生動物はむやみに近づくものではない、という距離感までも奪います。
市民の安全を守る責任と防災訓練の重要性、そして動物への配慮が名古屋市消防局からの回答に記されていました。動物の問題に対し、名古屋市消防局の誠意あるご回答に感謝します。
子どもたちのため? その子どもたちが成長したときに
イルカショーや動物サーカスは世界的に廃止の流れにあります。子どもが喜ぶから、子どもたちの夢のために、と大人は動物たちの苦しみから目を背けがちです。ですが子どもたちが成長したとき、大人が見せたゾウの防災訓練や動物の曲芸は国際社会から取り残された、時代遅れのものだったと、やがて知ることになるでしょう。
そのとき、結局は悲しい思いをすることになるのではないでしょうか。動物の娯楽利用は、早くやめるに限るのです。
名古屋市消防局 総務部総務課 庶務担当 からの回答
この度は、他都市における像を用いた消防訓練の演出に関して、貴重なご意見をいただきありがとうございました。
名古屋市消防局においては今年度、木下サーカスにおける消防訓練で、象を含めて動物を使用し演出を実施する予定はありません。
消防訓練は消防法に基づき建物の防火管理者がその責務として実施するものであり、
実際の災害を想定した訓練を通じて、関係者の初期対応能力や避難誘導等の確実性を高めることを目的としております。
当局においても法令に基づき、訓練の実効性と公共性を重視し、適正な内容での実施を徹底してまいります。
今回のご要望は真摯に受け止めるとともに、今後も訓練内容の企画・実施に当たっては、
法令遵守はもとより、倫理面や社会的責任にも十分に配慮してまいります。
末筆ながら、今後とも本市の防火防災活動に対するご理解とご支援を賜りますようお願い申し上げます。
北九州市消防局局長からの回答
消防局にいただいたご意見について
日ごろより、本市の消防行政へのご理解とご協力をいただきありがとうございます。
我々消防では、火災等の災害発生の未然防止と災害発生時の迅速な対応のため、日常的に災害対応訓練や事業所、地域等と連携した消防訓練を行い、様々な事態に備えているところです。
消防訓練は、火災等の災害が発生した場合の確実な119番通報や、消防隊が到着するまでの間、各事業所の職員が消火設備や避難設備等を使用して、迅速かつ的確に生命保護や災害の拡大防止措置が取れる体制をつくることを目的として実施しています。
今後も市民の皆様が、安全で安心して暮らすことができる災害に強いまちづくりを推進してまいります。
《参考》2022年、愛知県警は木下サーカスのゾウを1日署長に
トップに使った写真は、2022年に愛知県警の中警察署が木下サーカスのゾウを1日署長にしたときに、公文書開示請求を行い、開示された写真です。今回、名古屋市の消防局は「しない」という非常に明快な回答をしてくれましたが、過去にこのような行事が愛知県内で行われてしまったのは、とても悲しいことです。